テロルの決算

たった今、安倍晋三氏の訃報が流れました。
ご冥福をお祈りします。
わたしにとって、あなたがこの国のリーダーだったことは、不快の一言でしたが、それ以外の点において、特に恨みはありません。安らかに眠ってください。

今日は、TVニュースをずっと流したままにしていたのですが、目撃証言が気になりました。

———-NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220708/k10013707601000.html
男は上がねずみ色のTシャツで、下は黄土色のズボンという服装に見えた。男は逃げる様子もなく、その場にとどまっていて銃はその場においていた。そのあと周りを取り囲んだSPとみられる人たちに取り押さえられた———-

そして、だいぶ昔に読んだ、下記の一節を思い出しkindleからコピペしました。

——-沢木耕太郎『テロルの決算』より
山口二矢は浅沼稲次郎を一度、二度と刺し、もう一突きしようと身構えた時、何人もの刑事や係員に飛びかかられ、後から羽交い締めにされた。その瞬間、ひとりの刑事が二矢の構えた短刀を、刃の上から素手で把んだ。二矢は、浅沼を刺したあと、返す刃で自らを刺し、その場で自決する覚悟を持っていた。しかし、その刃を握られてしまった。自決するためには刀を抜き取らなくてはならない。思いきり引けばその手から抜けないこともない。しかし、そうすれば、その男の手はバラバラになってしまうだろう。二矢は、一瞬、正対した刑事の顔を見つめた。そして、ついに、自決することを断念し、刀の柄からから静かに手を離した……。(=略=)一瞬の迷いの中に、テロリストの心情が透けてくる。それは帝政ロシア末期のテロリストたち、たとえばサヴィンコフの伝えるカリャーエフなどに共通の心情である。セルゲイ大公の馬車に幼児が乗っていたため手榴弾を投擲できなかったカリャーエフの心情と、それは少しも変わらない。———-

41歳だという山上徹也容疑者は政治信条に対する恨みはなかったとのことで、それならどういう理由だったのでしょうか。
わたしは、「アベ政治を許さない」というメッセージをずっと流し続けた一人として、歯の浮くようなことは言いたくないのです。
じぶん自身が暴力をふるうということはあり得ないのですが、健康不安がうわさされるアベ氏が、白湯を飲んでいるという噂に、一抹の「期待」をいだいたり、飲み会の席で、「アベと刺し違えてもいいと思っている」という某氏の発言に、「刺し違えるのはもったいないですよ」と軽口をたたいていた自分がいます。

「アベ政治を許さない」というメッセージを掲げ続けるという非暴力不服従の闘いが、なかなか成果をあげなかったことにイライラしつづけていた長い長い時間を経て、ウクライナとロシアの戦争があるこの時に、われわれの言わば政敵であったアベ元首相が凶弾に倒れることになりました。人の命のなんとあっけないことか。暴力の即効性に、その凶暴性に、恐れおののいています。そして、山上徹也容疑者だけの犯罪なのかと思わずにいられないのです。なぜなら、この世界はウクライナに武器を送り続け、暴力不服従を奨励しているから。

下記は自分が賛同しているというわけではないのですが、丸山眞男先生の「拳銃を……」とうい短い文章からの抜き書きです。

———-豊臣秀吉の有名な刀狩り以来、連綿として日本の人民ほど自己武装権を文字通り徹底的に剥奪されて来た国民も珍らしい。私達は権力にたいしても、また街頭の暴力にたいしてもいわば年中ホールドアップを続けているようなものである。どうだろう、ここで一つ思いきって、全国の各世帯にせめてピストルを一挺ずつ配給して、世帯主の責任において管理することにしたら……。(=略=)なにより大事なことは、これによってどんな権力や暴力にたいしても自分の自然権を行使する用意があるという心構えが、社会科の教科書で教わるよりはずっと効果的に一人一人の国民のなかに根付くだろうし、外国軍隊が入って来て乱暴狼藉しても、自衛権のない国民は手を束ねるほかはないという再軍備派の言葉の魔術もそれほど効かなくなるにちがいない。「丸山眞男集 第八巻」より———-

ご参考までに。

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